学校はみなさんがいじめられても飛び降りるまで何もしないですからね

いじめの話がなくならない。今度は神戸でおきた自殺未遂事件だそうだ。机が悪口を書いた紙切れで覆い尽くされていたのだが、当事者は写真を撮影しただけで何もいわずに授業を受け続け、そのあと公園の石垣から飛び降りたのだという。

この話が拡散したのは、机の写真があまりにも非日常的でインパクトがあったからだろう。これを「生徒同士のじゃれあい」と感じていたそうだから、感覚がかなり麻痺していたことがわかる。

この事件には2つの問題がある。一つは学校側が「学校に何か物申すなら命を捧げよ」というかなり明確なメッセージを出しているという点で、もうひとつはそれを敏感に感じ取った学生が「学校は何もしてくれないのだから身を守るためにはいじめに加担しなければならない」と感じているという点だ。

学校は何もしないことで「もし深刻ないじめだと感じるならそれなりの行動を起こせ」と言っている。「それなり」というのは命を賭けて抗議をしろということである。学校のような神聖な秩序にチャレンジするのだから、それなりの対価を支払うべきだと言っているのだ。いったん自殺や自殺未遂が起こると今度はプロトコルに従って「調査委員会」が作られるが、それまでの間紛争を処理する仕組みはない。先生は秩序に反して仕組みを作ろうとは思わないので、自動的に放置されるというわけだ。

このプロトコルは日本人を考える上で重要な概念だ。例えば家庭内のいじめの対応には社会的な二つのプロトコルがある。一つは児童虐待でこれは児童相談書で「処理」される。もう一つはドメスティックバイオレンスでこちらにも専門の仕組みが用意されている。つまり、それ以外の暴力(例えば親子間とか兄弟とか)には適切な仕組みがないので、例えば高齢の親を子供が殴ったなどというケースには行政は介入しない。制度がないのに動くと調整が面倒だからだ。

同じように学校には生徒間の紛争を事前に処理する仕組みがない。法律に従って重大インシデントに対応する仕組みはある。これに合わせるには飛び降りるしかないのである。カフカの「城」を思い出させるような話だが、実際には学校も「お役所」の一つになっていると考えられる。

もう一つの問題は相撲や企業不正について観察した時に見た「世間を騒がせる」罪である。本来平和であるはずの教室にいじめが起こっているということを告発することは、担任教師のマネジメント能力に対する疑問なので慎まなければならないし、同僚の教科教師が疑問を挟むこともできない。さらに生徒がこうした秩序を「飛び越えて」教育委員会や第三者委員会に強訴することは決して許されないという学校内封建秩序である。

この話を聞いて思い出したのは佐原惣五郎の話である。「伝説だ」という話も多いようだが基本的な路線は次のようなものである。

佐倉藩の農民は重税に苦しんでいたのだが聞き入れられず家綱に直訴した。願いは聞き入れられたのだが、佐原惣五郎は処刑されてしまう。本人だけではなく妻も男子の子供も処刑されたという。つまり、一家根絶やしになってしまったのである。

この背景にあるのは、個人が体制に文句をいうことは決して許されないのだが、もしやるとしたら一家が根絶やしになっても構わない覚悟でやりなさいということである。直訴を許してしまうと、気に入らない時には直接幕府に訴えればよいということになってしまい、幕藩体制が揺らいでしまうからだ。

学校を一種の封建社会だとみなすと、生徒の人権というのはそれほど大切なものではなく、学校の秩序維持が重要だということになる。もし訴えたいことがあるならば、命をとしてやりなさいということで、飛び降りる生徒というのはその仕組みに従っただけということになる。こうした社会秩序が前提にあるのに「命は大切だから」などと訴えても全く説得力はない。

このブログで自殺や死にたい人について考える時に、常に「訴える手段として自分の命を使うな」と言っている。時には「訴える側にも意地になっている側面があるのではないか」といって反感を買ったりすることがある。つまり、自分がいじめられているということを社会に認知させるためには死ねば良いという「正解」が出てくると、そのことで頭がいっぱいになり、自分が何を犠牲にしているのかということがわからなくなっているのではないかと思うのだ。

このような問題を防ぐためには、第三者の恒常的な介入は欠かせないのではないだろうか。また、生徒が気軽にノーコストで「直訴」できるような仕組みを作り、それが当然の権利であるということを丁寧に教えこまなければ、似たような問題はなくならないだろう。結局のところ「死ぬほど悩んでいるのか」ということは当人にしかわからないからだ。

その意味で、この学校と教育委員会のやり方は許容されるべきではないと思う。

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