空き家の研究 – 市場と社会主義の失敗

朝日新聞に低所得者向けに空き家を有効利用してはどうかという国交省の提案が載っていた。耐震基準を満たした空き家のデータベースを作って、低所得者に貸し出すというのである。確かになんとなく良さそうな提案ではあるが、本当に実現できるものだろうか。

まず、耐震基準から見ておこう。2015年4月の日経新聞によると2/3が旧耐震基準で作られているそうである。空いている住宅は市場価値が低いものが多いのだが、壊すのにもお金がかかる。更地にすると解体にお金がかかるうえ、税金が跳ね上がる。だから売るに売れないし、壊すに壊せないという人が多いのだ。

それでも、1/3は引き受け手が出るのではないかというポジティブな意見もあるだろう。確かに園通りだ。朝日新聞には「成功事例」も載っている。ひたちなか市や多治見市ではすでにこのような制度があるということである。

気になるのは国土交通省がやるのは「情報提供のインフラ作りだけ」という点である。今回もデータベースなのだが、過去の空き家対策もデータベースだ。あまり自分たちで手を汚したくないのではないかと思う。実務は市町村に丸投げするのではないだろうか。

そもそも、空き家のマッチングがうまく行かないのは情報インフラが整っていないからではない。不動産市場になにか不具合があるからだろう。問題はいくつかある。市場は低所得者が入れるような住宅を供給するような体制にはなっていない。家は終身雇用で給与が上がって行くという前提でなければ手に入れることすら難しい。人々は新築で家を買いたがり(一生に一度の買い物だから自分で設計したいのだろう)中古住宅は人気がない。さらに、地方では人口が減りつつあり、都市への一極集中が進みつつある。つまり、データベースを作っても市場の失敗をカバーすることはできないのだ。

加えて、不動産の賃貸は手間がかかる。借り手が家を傷つけたとか、敷金礼金が帰ってこないとか、売りたいのだけど出て行ってくれないとかさまざまな問題がある。記事を良く読むと、地方自治体も仲介するだけであり、細かいことは持ち主と借り手同士でやってくれということになっている。

例えば家が壊れたとすると貸し手が修繕しなければならない。余計な手間がかかる。さらに相続して複数の相続人で遺産を分けたいとなったときには売ってから分割しなければらなない。そんな時に貸し手の都合で「今すぐ出て行ってください」などと言えるだろうか。こうした問題はすべて貸し手に丸投げされることになっているのだ。

さらにご近所問題もある。駅から遠く、都市計画上共同住宅が建てられなくなってい土地は、共同住宅に転用できずに売れ残る。そこに、低所得者の方が入ってくる。すると近所の住民はどう思うだろうか。トラブルが予想される。自治会への参加はどうするのか、ゴミ置き場の掃除はどうなるのかといった些細な問題なが、住民には大きな問題なのである。

 

空き家の問題の根幹には、人口の減少、終身雇用制度の破壊、それでも変わらない都市への一極集中の問題など「日本人の生き方」に関する多くの問題が隠れている。これを放置して「データベース作りましょう」というのは、国の怠慢としかいいようがない。

朝日新聞も「データベース=福祉政策」というので一面の扱いだった。多分、朝日新聞に勤めている高給取りの人たちにとっては、空き家の状況というのは他人事なんだろうなあと思った。そういう人たちにとっては、足下の問題よりも「明日戦争になるかもしれない」というほうが切実な問題に思えるのかもしれないが、実は日本のコミュニティというのはかなり深刻に蝕まれているのである。

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