フライデーの罪と現行憲法

フライデーで薬物疑惑報道が出た直後、成宮寛貴さんが引退した。直後のTwitterではフライデーは許せないというような書き込みがあふれた。その多くは「成宮さんはクスリなんかやっていない」とか「心情的に許せない」などというものだ。フライデーのTwitterアカウントには非難の声が殺到しているという。

しかし、問題はそこではない。フライデーは明確に憲法違反を犯したのではないかと思われる。ここは、理路整然と追い詰めるべきだ。

問題はセクシャリティの暴露である。「成宮さんはゲイだ」といううわさはあったのだが、本人は否定しないまでも表ざたにはしてこなかった。芸能人は女性からあこがれられる必要があり、邪魔だと考えたのかもしれない。

セクシャリティの開示はプライバシーにあたる。プライバシーは憲法第十三条で守られている。すべての国民には幸福を追求する権利がありそれを侵されてはならないとされているのだ。どこまでがプライバシーに当たるかは議論があるのかもしれないが、政治的信条、出自、信仰、セクシャリティなど人格の中核にあるものがプライバシーだ。自分で選んだものもあるし、変えられないものもあるが、そこが変わってしまうと「その人がその人らしくいられなくなる」ものを暴かれてはいけないのである。

もちろん幸福追求権は別の権利とぶつかることがある。それが表現の自由である。表現の自由は政治的な信条などを自由に発言するという民主主義の基礎の一つだ。このため、政治家のプライバシーは制限されることがある。公私混同を「プライバシーだ」と守ってしまうと民主主義そのものが破壊されかねない。だが、これは極めて例外的なケースである。

成宮さんの場合、報道で得られる公益は何もなさそうだ。フライデーは記事を出すことで「薬物汚染にメスを入れる」など主張するかもしれないが、薬物使用の証拠があるのなら警察に持ち込むべきだった。実際に事務所との間ではそのようなやり取りがあったようだ。しかし、警察に持ち込んでもフライデーには一銭も入らないわけで、つまりこれは単なる金儲けである。

成宮さんはプライバシー侵害によって「役者のイメージ」を損なわれ幸福追求の権利を失ったと言える。実際の損害は1億円に上るという報道もある。

成宮さんが薬物を扱っていたかということと、プライバシーの問題は独立している。つまり、クスリをやった人はプライバシーを暴かれて人生をめちゃくちゃにしてよいということにはならない。しかし、マスコミはこの事実から逃げている。普段からフライデーをコンテンツとして引用しており依存関係にある上に、クスリの使用を擁護するのかという炎上を恐れているのだろう。

また「自称インテリ」のリベラルな人たちの間からも成宮さんを擁護しようという動きは出てこなかった。欧米だと同性愛者の擁護は人権派が関心を寄せる問題なのだが、日本人の意識はまだまだ遅れている。日本の人権派は政権に敵対することが自己目的化しており、他人の人権には実はさほど関心がないのかもしれない。

ここまで書いてくると、不倫報道はどうなのかという疑問が出てくるのではないだろうか。もちろん「アウト」ということになる。こちらは不倫とプライバシーが直接リンクされているので、基準があいまいになりがちだ。

しかし、仮にマスコミに社会的に罰を与えるという機能があるとしても(そんな機能はないのだが)、妻がいる夫の側が裁かれるはずである。実際に裁かれるのはどちらか有名な方だ。「見出しとして強い」方がフィーチャーされるということになっている。これは単なる商業主義に過ぎない。他人のプライバシーを盗んで売っているということになる。

ここで「人権というものはそこまで守られるべきものなのか」と考える人も出てくるのではないだろうか。実際、プライバシーを切り売りしている芸能人は多いし、受け手の側もそれを当たり前だと考えている。制度上、裁判を3回受けるまで罰せられることはない(三審制)はずなのだが、疑惑が出た時点で社会的に裁かれることも横行している。

つまり、そもそも人権は日本の社会には根付いていない。それでも他人の人権侵害が最低限に抑えれているのは「押し付けられた」憲法という歯止めがあるからである。憲法改正には理想を現実にひきつけて、今でも横行している人権侵害を当たり前のものにしてしまおうという堕落があると考えられる。

いずれにせよ、成宮さんは今大変な混乱の中にいる。こういう時こそ周りの人やファン、一人ひとりのつてを使ってどういう手段で制裁ができるのかという世論を作らなければならないのではないだろうか。そろそろ他人のプライバシーを侵害してお金儲けをするようなことをジャーナリズムだと呼ぶのはやめた方が良い。それはとても野蛮なことである。

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