Via Borgonuovo21, Milano

古着屋で夏物のジャケットのセールをやっていた。900円で売れなかったのだろう。多くのジャケットが半額になっていた。その中にGorgio Armaniを見つけた。偽物だと思われたのかもしれない。ラベルを見たら確かにBorgonuovo21という見慣れない表記が入っている。聞いたことがない。素材はリネンにシルクが混じっているようだ。触って見たらくたびれたネクタイのような手触りがある。シルクのネクタイから光沢がなくなるとこんな手触りになる。素材は本物のようである。




「Borgonuovo21」で調べてみるとメルカリとかeBayのものしか出てこない。もしかしたら偽物かもしれないなあと思った。偽物だったとしても450円なので惜しくはないだろうと考え直して買ってみることにした。決め手になったのはシルエットだった。

90年代のCollezioniを何着か持っているのだが、この中にシルエットが似ているものがあった。もし偽物だとしたらパターンを熱心に真似して素材も揃えてタグも取り寄せたことになる。殊勲賞と言えるだろう。

というか、おそらく本物なんだろうと思っている。Collezioniはデパートの吊るで買ったので袖がちょっと長めなのだが、今回買ったものは袖が調整されている。日本人が買って直してもらったのでかもしれない。もう着ることはないと思ったか持っていた人が亡くなってしまったか、その辺の事情はわからない。だが古着屋市場に出回ってもそれが評価されることはない。

アルマーニのテーラードジャケットはよく「着ていることを忘れさせる」などとよく言われる。スーツに必要な芯が入っていないからである。よくこんな華奢な素材でジャケットを作ったなと呆れるほど軽いのだ。だが肩パッドだけはしっかりと入っている。

ボタンは意外に安っぽい。これ見よがしに手縫い風のステッチになってもいない。つまり「価値相応のありがたみ」はない。贅沢品としては作られていないのである。

450円だから気軽に着られるのであって、これが10万円も20万円もすると思ったら着られそうにない。おそらく日本では売っていなかったと思うのでわざわざイタリアに買いに行ったのかもしれない。高い服だからディテールに凝るというのはおそらく貧乏な人の発想なのだろう。

450円なのでリュックサックを背負ってみた。背中が擦れるんだろうなあと思う。昔から持っていたアルマーニのジャケットもかなり粗雑な着方をしていた。アパレルのショップなどに行くと嫌がられたりしたものである。服好きの人には冒涜に見えたのかもしれない。アルマーニはあれくらいの価格帯のものを「別にいいや」と思って着ることができる人たちが買っていたんだろうなとしみじみと思った。そういう人たちは日本からはほぼ消えてしまった。

着方を研究するために1989年のMen’s Non-noに目を通して見たのだが、最先端のモデルたちがドヤ顔でオーバーサーズのスーツを着ていた。「つい最近」のような気がするのだが、冷静に考えてみればもう30年前の話なのである。

こうした贅沢品は雑誌に登場するほどありふれたものだったし、それを取り立てて贅沢なことだとは思っていなかった。改めてバブルだったんだなと感じた。

巷ではオーバーサーズブームが落ち着きつつあるのだが、スーツやジャケットは体にぴったりのものを選んで着るという潮流が根強い。今回のジャケットは「サイズ50」ということもありおそらく「どこかサイズ感が間違えているのではないか?」と思う人も多そうである。だが、実際に1990年代にはこういうサイズ感のスーツを着ている人はたくさんいた。最近では映像資料も増えている。Pinterestを検索するとその頃のカタログ写真がたくさん出てくる。

そもそもBorgonuovoとは何なのか。イタリア語で新しい村という意味だそうだがミラノにあるアルマーニ本社の所在地なのだという。

アルマーニの本社はBorgonuovo通り11番地にあるそうである。18番地にまで拡張されているというイタリア語のウェブサイトを見つけた。21番地にあるのはアルマーニさんの自宅なのだそうだ。アルマーニの中で素材に凝ったものにつけられた名前なのだという話もあるしブラックレーベル(つまり若い人向けに拡張したブランドである)と言っている人もいた。実際のところはよくわからない。

買ってはみたもののこれを着てゆくような場所は思い浮かばない。アメリカやイギリスではDupperといって自分にぴったりのサイズを選んで着るのが良いとされているそうだ。

コレクションとしては面白いのだがあまり着る機会はないのかもしれないなあと思った。それよりもなによりもバブルのような時代はもうやってこないのかもしれないと思った。

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