「やらさせていただく」という間違った敬語について考える

最近「やらさせていただく」という敬語が多く聞かれるようになった。この言葉はEXILE関係の人たちがよく使っているところから、私はEXILE敬語と名付けている。だが、これを間違っていると感じる人たちもいるのである。




この敬語表現はまず芸能人が使い始めたように思える。俳優やタレントは自主公演を除けばオファーがあってはじめて何かができる受け身な存在なので「〜する」よりも「〜させられる」ことが多い。彼らにとっては「(〜の役)をさせていただく」というのは自然な表現だろう。例えばダンサーのMABUさんという人はダンサーに抜擢された喜びを次のように表現している。

まさかATSUSHIさんが僕の楽曲に参加してくれる日が来るなんて、、、2014年にATSUSHIさんの”MUSIC”ツアーダンサーをやらさせて頂いてた頃には想像もしてなかったです!ストリートインディーズの僕と、メジャーシーンのトップアーティストのコラボは国内でも今まで類を見ないと思いますし、個人的にも日本の音楽シーンにとっても歴史的な楽曲だと思います!そんな特別な楽曲を僕の大切なアニキと作れた事を心から嬉しく思いますし、本当に感謝の気持ちでいっぱいです!聴いて下さった皆さんの夏が最高な思い出になる事を願っています!

https://dews365.com/newpost/150771.html

これが、テレビを通じて敬語空白の人たちに広まったのだろう。

ところがこれを敬語として正しいかと聞くと多くの人が間違っていてこれはないと答えるのだ。質問サイトQUORAでの答えはこんな感じである。概ね否定派である。つまり面接やビジネスシーンで使うと「これはないよね」と言われてしまうことがあるということになる。

「させていただく」は意思決定ができる範囲の差を示している。「〜させていただく」人には自由意志はなく、つねに相手の許可が必要で、間接的に地位が低いことを表現している。させていただくが増殖するのは自身で意思決定できない人が増えたからなのかもしれない。ダンサーのように指名されて仕事が入るような人にはぴったりの言葉である。

しかし、就職活動のインタビューでは「部長をやらさせていただいた」はいろいろと問題がある。この表現には「受身だった」含みがある。自分が積極意的にやったわけではない。周りからやらされたことになる。過剰敬語を防ぐためにも「部長をやりました」もしくは「部長を務めました」くらいがよい。

さらに丁寧語のインフレもある。旧来、取りあえず丁寧にしておきたい場合には、普通「です、ます」などを使っていた。「させていただく」系を使う人たちにとっては「です、ます」では丁寧な感じがせず不安なのかもしれない。だが、「させていただく」は、旧来の敬語を話す人たちには「過剰」だと考えられている(好感をもたれる敬語入門 第5回 「させていただく」の多用は耳障り)ので、ビジネスシーンでは使わない方が無難だ。

させていただくは「する」の使役形だ。これに動詞「やる」を付けると問題が複雑化する。どちらも英語に訳すと「do」になるが、使い方は微妙の異なる。「やらさせていただく」は、「やる」+「する(使役)」+「いただく」となり重複ができる。「やるする」という言葉はないので「やらせていただく」が正しい。ところが形が複雑になると、正しいのか間違っているのかよく分からなくなる。

この分かりにくさが「さ入り言葉」が慣用的になんとなく使われてしまう背景にあるのだろう。例えば「書くする」という言葉はないので「書かさせていただく」は間違いだ。「食べする」という言葉もないので「食べささせていただく」もない。しかし「動詞+させていただく」で覚えるとついつい使ってしまう。伝統的な日本語では五段活用には「せていただく」を使い、それ以外の動詞には「させていただく」を使うののだそうだが、それが曖昧になってきているようだ。

「〜させていだたく」は、敬語として新しい形であるだけで、厳密には間違っているわけではないのかもしれない。言語学的には「言葉は生き物である」と考えられており、ある社会方言的な敬語を間違っているというのは正しい態度とはみなされない。だから、今後正しい用法として受け入れられる可能性はある。しかし、過剰敬語でありビジネスシーンではなんとなく間違っているという印象があるのでビジネスの現場で使うのは避けた方がよいだろう。

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