決めない国日本・決めすぎる国アメリカ

トランプ大統領が就任してからわずか一週間でさまざまな大統領令が発令された。ある報道では17に上るという。これを聞いた日本人は「革命でも始まるのではないか」と怯えている。戦後70年以上アメリカとお付き合いしているわけだが、日本はアメリカの新しい側面を知りつつあることになる。

「決めすぎる国」を知ることは「決められない国日本」を知ることでもある。この「決められない」性格は、長時間労働や豊洲移転問題の混乱などを解くカギになる。

決めすぎる国と権力の独立

アメリカにはWHY NOT?という言葉がある。WHY NOTには悪い含みはなく、積極的に推奨されている。「なんでやらないの」といような意味だ。つまりアメリカ人は「思いついたら試してみたい」人たちなのだ。

トランプ大統領は気に入らない国からの移民は入れないという方針を打ち出し、それをWhy Not精神で即座に実行してしまった。その影響でたまたまテヘラン生まれだったアメリカ人や戦争時に通訳とて貢献したイラク人などなどが入国を拒否されたり飛行機に乗れなくなった。中には空港で手錠をかけられた人もいるそうである。

「根回し」が何もなく、当局者は「ボスがそういうなら」と後先考えずに命令を実行してしまった。だが、この混乱はすぐに収束した。裁判所が人権団体の申し立てを受けて大統領令を差し止めたからだ。権力者は間違える可能性がある。だから権力が分散しておりそれぞれ独立性を保っている。同じような分立は議会との間にも働いている。トランプ大統領は「壁を作る」と言っているが、予算が通らなければ壁は作れない。

権力がにらみ合っているからこそ、トランプ大統領は安心してむちゃなことができる。「俺はやろうと思ったけど議会がねえ」と言えるのだ。トップが思い切った対応ができるのは、それぞれが独立しており、うまく機能しているからだ。

決められないし責任も曖昧な国日本

むしろ面白かったのは日本人の反応の方だった。大統領(つまりアメリカで最も偉い人)が決めたからみんな従うだろうと思っている節がある。だから「トランプの意向」を気にするのだ。だが、これは極めて東洋的な考え方だ。

日本人は集団で決める。そのため意思決定が遅い。さらに、誰が何を決めたのかはっきりしない。このため、意思決定が遅い。しかし一旦決めたことをやめるのはさらに難しい。誰が決めたかがわからなくなっているからだ。

実例1:もめ続ける豊洲移転問題

例えば誰が考えても破綻している豊洲移転問題はまだもめているようだ。外野からも「論客」の参入があり話がややこしくなっている。池田信夫さんなどはこれでフォロワーが増えたと喜んでいるくらいだから、世間の関心が高いのだろう。池田さんのような外野でも「ネットで揉めているから俺に発言権がある」と考えてしまう人が出てきて、それに同調して騒ぐ人がいるのだ。

こうしたことが起こるのは権限が曖昧だからだ。「誰が何を決めているのか」がさっぱり見えてこない。ボスは石原慎太郎だが、部下に権限を委託(しかもインフォーマルに)しており、それを忖度した周囲も言うことを聞いてしまう。浜渦武生さんは選挙で選ばれていないので責任が取れない。浜渦さんの無理を聞いているうちにいろいろと無理が生じるので数字の改ざんなどが起こった。数字や議事録を隠した人を探しているうちに、なんとなくトップの責任は有耶無耶になってしまう。有権者にとっては責任者だったはずの石原さんは「俺にそんな難しいことがわかるはずはない」と嘘ぶいている。

実例2:延々と調整を続けて過労死する労働者

この権限の曖昧さは長時間労働などの原因にもなっている。職掌が曖昧なので有能な人に仕事が集中する。また中間管理職は誰に話していいかわからず調整に右往左往する。ひどい場合には全く関係のない人が出てきて「俺は話を聞いていない」などと言い出す。そういう人を収めるのに長い会議を行なうのである。みんな責任は取りたくないのでいつまでもなにも決めない。しかし重要な会議のたびに膨大な資料が必要になり「情報が少ないから決められない」と言い出す人が出てくるのだ。

実例3:東芝の関東軍

東芝では巨額の損出が発覚するまでは「社長すら何が起こっているかわからない」という状態だったそうだ。実際は専門家集団が勝手に決めて、責任が取れなくなってはじめて経営陣に「どうしましょう」と泣きついてきた。このために切り売りされるのは儲けを出している(つまり一生懸命働いている)人たちだ。つまり東芝の原子力部門は、本部から独立して関東軍化していたのだ。

トップがぐだぐだでも回り続ける

安倍首相の「立法府の長」発言も記憶に新しい。実際には党の人事を握ることで立法府をコントロールしているのだが、表向きは「関係ないから知らない」と言い続けている。安倍首相は多分自分が今何をやっているかわかっておらず、普段は官僚答弁を読んでいる。「でんでん」が話題になっているが、読み言葉としては意味が取れない。つまり安倍さんは国会で「答弁朗読マシーン」になっていて、読んでいる内容を理解していない可能性が高い。つまりボーカロイドでも構わないのだ。

日本の場合は安倍首相がめちゃくちゃでもとりあえず混乱なく(改革も進まず)粛々と動いている。日本は集団合議制の国であり、個人の意思決定など最初から信じていないからなのだろう。だから「アメリカが優れていて日本はダメ」というつもりはない。今、アメリカの空港は大混乱していて「誰に話せばいいんだ」という弁護士の質問に「大統領に話してくれ」と応えている状態だそうだ。アメリカのビザ要件はしょっちゅう変わることで有名なのだが、いくらなんでもこれは前代未聞である。

アメリカを理解すると日本がわかる

この集団合議制は日本にあっていたのだろう。日本と同じようなもたれ合いのある韓国は個人に権力が集中しかねない大統領制を導入してしまったために大混乱している。日本でも二元代表制はあまり機能せず石原慎太郎のような混乱が生じた。つまり、日本がとりあえず回っているのは集団合議制を採用しているからなのだ。

「決めすぎる国」を知ることは「決められない国」を理解するために重要なのである。

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