トランプ大統領の外交政策が大惨事となる可能性

トランプ氏のツイートを見て、いろんな意味でちょっと背筋が凍った気がした。普段は安倍政権に対する文句とゆるいつぶやきで満たされているタイムラインで背筋が凍るような経験をすることはなかなかない。

このツイートを見ても一瞬意味が分からなかった。ナイジェル・ファラージといえばイギリスがEU離脱を決めた時に「有る事無い事」を吹き込んで離脱派を煽った前科がある人だ。最終的には「もう知らない」と言って党首をやめたのだが、後継者がいないという理由で党首に復帰したようだ。

その人がイギリスの駐米大使になればいいのにと言っている。一瞬「大使が決まったのか」と思ったのだが、そんなニュースはない。つまり、トランプ氏は(認証アカウントとはいえ)プライベートのアカウントから、イギリスに「大使はこの人がいいな」という「ツイッター辞令」を出したことになる。

イギリス人はプロトコルにうるさい国民として知られているわけだし、そもそも内政干渉になりかねない。もし、同じように日本の大使をトランプが指名したらきっと大騒ぎになるだろう。日本人はアメリカの意向を気にするから「向こうからのご指名があるわけだし」という話になりかねない。独立志向が強い(日本はアメリカの属国だからよいとして、イギリスはもともと宗主国なのだ……)イギリス人がこれを許容するとは思えない。

ファラージ氏はいち早くトランプ支持を表明していたという。そういう義理を大切にる人なのだろうということはよく分かる。安倍さんのように後から支持を表明したような人は、外様大名みたいな扱いを受けることだろう。この内と外を分ける感覚はわかりやすく発揮されている。多分、本気で指名しているわけではなく、ファラージ氏を喜ばせるジェスチャー(相手を喜ばす行為)だった可能性はある。

最近共和党の重鎮たちはトランプ氏に対して「ツイッターでの発言を控えるべきだ」と諌めていたようだ。それはアメリカ大統領の発言は国際紛争や金融などに大きな影響を与えるからである。

現に、今朝方ツイッター経由でビデオを発表し、その中にTPPから撤退するという発言が含まれていたために、日本の政治家やマスコミは大騒ぎになっている。これはあらかじめわかっていたことであり「まあ、かわいいな」などと思っていたのだが、同盟国のプライドを平気で踏みにじるようなことをする大統領は早晩大きな問題を起こすに違いない。下手をしたら、Twitter辞令で国際紛争勃発みたいなこともあるかもしれない。

トランプ大統領と演劇的空間

NHKの番組に高田延彦が出ていた。トランプ大統領の誕生を予期できなかったマスコミは何を間違えたのかというテーマがあり、制作者たちは、トランプはプロレスから学んだというような仮説を持っているようで、得意げに「プロレスはヒールが物語をコントロールしている」などと言っていた。

演劇の視点からはこの説にはかなりの無理があるように思えた。そもそも西洋の演劇類型は悲劇と喜劇の2つある。悲劇が扱うのは運命なのだが、主人公は最終的に運命に負けてることになる。それ以外の事象を扱うのは全て喜劇である。

実際の神話には、主人公が敵に勝つという物語がある。これも運命に勝つという物語であり、運命対人間という図式には違いがない。悪役というのは主人公が対峙する運命を具現化しているだけなので、受け手の心理的な投影の対象にはなりえない。

人々が演劇に求めるのはカタルシスだ。閉鎖された空間で他人の悲劇的状況を見ることで、普段の生活で抱えている様々な感情を解放するのである。だから、政治が演劇であるという前提そのものに大きな問題がある。有権者は大統領選挙を閉鎖空間の出来事だと捉えていることになってしまうからだ。実際には明日からの生活に影響があるわけで、これは有権者の誤認だと分析されるべきだろう。

いずれにせよ、運命そのものに投影しているということは、つまり物語そのものが解体するのを喜んでいるということになってしまう。するとヒールが破壊しているのは、主人公ではなく物語世界そのものだ。

一つ思い当たるのはアメリカの映画が、運命に打ち勝つだけでなく、主人公が成長することが前提になっているという点だ。だが、アメリカにも成長したくないという人はいるわけで、そういう人たちが成長を否認する演劇世界がプロレスだという仮説が立てられる。プロレスは、成長物語を信じているテレビや新聞が「下に見ている」人たちのための娯楽空間なのだ。

髙田延彦は、演劇の素人たちから「プロレスってヒールが物語をコントロールしてるんですよね」などと言われて、曖昧な笑顔を浮かべていた。プロレスが持っている物語の構造についてきちんと語るべきだったのではないかと思う。と同時に「プロレスはスポーツだ」と思っている人もおり、そのために遠慮があったのかもしれない。あるいは、政治報道のアウトサイダーが「きちんとした場所にお呼ばれした」という意識があったということも考えられる。

オバマは理想を語ったけど、結局成長したのはオバマだけであり、受け手には関係がなかった。であれば、そんな理想が完膚なきまでに破壊されるのを見てカタルシスを得たほうがいいということになる。

橋下徹が「今回の選挙ではインテリが敗退した」と言っている。これはインテリがヒールだという意味なのだと思っていた。だが、トランプ分析を受け入れてしまうと、そもそも政治の持っている物語世界の解体を意識しているのかもしれないと思えてくる。あるいはその闘争自体が、一つの物語かもしれないなどと考えてしまうと、構造は無限に複雑化する。

本来考えたかったのは、受け手はどうやってヒールとベビーフェイスを分けているのかということだ。例えば小池劇場では、内田さんがヒールであり、小池百合子はベビーフェイスである。しかし、国政では安倍晋三がベビーフェイスであり、蓮舫がヒールになっている。

蓮舫代表はベビーフェイス顔なのだが、きつすぎてヒール顔になってしまった。だが、構造がわからないので何がヒールを決めているのかが分析できない。その上、受け手が物語の解体そのものを願うようになると、もはや誰がヒールなのかという分析そのものが無効化するだろう。

何が物語の解体を望むのか(言い換えれば日本人はなぜ物語の崩壊を望まないのか)という点についても「よくわからない」としか言いようがない。スケールとしては日本が一番進んでいるように思える。正義と悪の対立が民主主義とは切断していて自民党の内部構造が担っている(例えば、小池百合子は自民党員だ)からだ。アメリカがこの中間にあり、もっとも遅れているのは韓国だ。正義の味方が現れては、堕落して消えてゆくという悲劇を延々と繰り返している。これは韓国に民主主義の歴史がほとんどないからだろう。ただ、このスケールだと一番進んでいる国は中国だということになる。共産党王朝なので民主主義が介在する余地が革命しかない。

しかし、物語の解体には持続性がないのだから、プロレスが興行としてヒールがベビーフェイスを破壊するという構造が永続するとは思えない。これは興行としては成り立たないわけで、ヒールがぶつかるというのは余興であるか、ベビーフェイスが勝つための途中経過なのではないかと考えられるべきなのではないだろうか。高田さんにはそのあたりを解説していただきたかった。

もちろん、政治を興行として扱うことはあまりにも不謹慎だ。政治は困っている人を助けたりして実感を取り戻すべきであるなどと書きたいのは山々なのだが、それが信じられない程度には政治家は堕落している。

安倍首相の思惑はトランプ大統領の戦略と合致するという分析

イアン・ブレマーが、トランプ新大統領と安倍首相は反りが合うというような分析をしている。内容が面白いというより、英単語の勉強になりそうなので訳してみた。なお、ブレマーは中立的な言い方をしているのに、悪意があるように訳してあるのは、単に訳した人(私)が安倍首相が嫌いだから。

4. Japan
Things get trickier with existing allies who Trump has repeatedly thrown under the bus during his “America First” campaign. Trump famously suggested that the U.S. would be better off if Japan had its own nuclear weapons instead of outsourcing its security to Americans. His world view—like a businessman’s—is transactional. But here’s the thing: Japanese Prime Minister Shinzo Abe actually wants a more muscular Japan. Japan has for five straight years increased its military spending, even if the military budget remains less than 1 percent of the country’s GDP. This is not for America’s benefit, but for Japan’s. China is growing larger and more powerful every day as America recedes further from Obama’s Asia pivot. Abe had hoped that the Trans-Pacific Partnership would keep the U.S. tethered to the region; wishful thinking it turns out. But in this instance, Japan’s desire to shoulder more security responsibility dovetails nicely with Trump’s.

  • thrown under the bus のバスは通学バスのことだそうで(最近はGoogleで多くのことがわかる)わがままな理由で友達を犠牲にするというような意味だそうだ。アメリカ人ってひどいですね。いじめじゃん。
  • transactionalはトランザクションのという意味なのだが、日本語には該当する言葉がないと思う。
  • tetherはテザー広告のように使われることが多いが、家畜をつなぎとめておくツナが原語なのだそうだ。知らなかった。
  • wishful thinkingってどのように訳せばいいのだろう。楽観的な見込みとか希望的観測とかそういう意味なんだろう。
  • in this instanceは「この場合は」。
  • dovetailは建築木材同士が噛み合う様を指すそうだ。こういう単語は忘れてしまいそうだけど、使いこなせるとかっこいいんだろうなあと思う。

トランプが「アメリカファーストキャンペーン」の間、わがままな理由で「日本はアメリカに防衛を外注しないで独自の核兵器を持ったほうがよい」などと主張した。このため、事態はややこしいことになっている。トランプは世界を商取引きとしか見ていないのだが、考えるべきことがある。安倍首相は日本の軍拡化(原文では日本の男性化とされている)を進めている。GDPの1%以下に抑えられているものの軍事費は連続5年上昇しているのだ。これはアメリカに貢献するためではなく日本のためだ。オバマのアジア重視政策が後退するにつれて中国が台頭している。日本はTPPを使ってアメリカ地域につなぎとめておきたいと考えていたが、それは単なる希望的観測だということがわかった。この場合、日本の安全保障に責任を持ちたいという意欲はトランプと適合している。

なお、カナダの項目には「リベラルなトルドー首相」という言葉が出てくる。これ、なんとなく「人権派の」みたい訳を当てたくなりますよね。実際にはどうなんだろうか。開明派のとでも訳すのかもしれない。こういう用語は実際のトルドー首相の政策などが分からないと訳せない。